- SURE-MANUFACTURING
- 2021.10.28
あのね、わたしやったわ!Tシャツになれたの。
私はねサンフォーキンバレーからやってきたわ。心地いい風と太陽が自慢の町よ。そうボブもいい人だった。いつも世界一だって私たちを褒めてくれるの。お客が来るといつも同じ話をしていたわ。アメリカンプライドだって自分のTシャツを引っ張ってみせるの。
ある日、農場にさよなら、ありがとうしたわ。刈り取りの日がやってきたの。きっと戻ってくることはないだろうけど、立派にコットンになってみせるわ。
ところが、、、ここからは思い出しても涙が出るわ。袋に入れられてバンドで固定されるの、ぎゅうぎゅう詰めよ。トラックでいくらか走ってから、そして船に乗ったわ。もう、息も止まるくらい真っ暗だった。何日も何日もこのままだった。そうね、もう一度は絶対にいやね。
じじじじ、いよいよきたわ。外に出られる。開放されるの。そう思いっきり膨らむの。
きっとここは遠い国。袋の中でTシャツって言ってるのを何回も聞いた。イントネーションは違うけど、きっとそう。だとしたら私はウルトララッキーガールよ!いよいよTシャツになれる日が来たのよ!なんでって? コットンはいろんなものに使われるの。ベッドのシーツや、お化粧のスポンジになったり、ロープになって重い荷物引っ張ったり、洋服になることはもちろん多いけど、柔道着になったりもあり得るわ。その中でやっぱりTシャツが私の夢よ。それもシロティーになりたいわけ。きれいになって、思いっきり風を感じたいの。
さあ、始まるわよ。ここからは覚悟が必要ね。先ず、わたしについている葉っぱや茎を落とすの。お風呂に入ると余計にとれないから、振り落すイメージね。シェイクするわ。次は針のローラーの中へ。オシャレはやせ我慢よ。勇気を出していくの。ちょっと、わたしをみて!なんだかまっすぐになったわ。もじゃもじゃに絡まっていたけどほら、サラサラよ!おすまししなきゃね。これでわたしは糸になるの!「ナイガイテキスタイル」あぁ、きっとここは日本ね。ボブが話していたハンサムボーイの会社ね。こんなにきれいにしてもらったし、喜んで段ボールに入れてもらうわ。次はどこかしら?ニット工場だったらいいんだけど…
やったー!ほら、私の予想はあっていたわ。ここは「オオハシニット」で、編み機がたくさんあるわ。私たちは1台の編み機の周りにきれいに並べられたの。そう90人仲間がいてね、クラスメートみたいなものね。これからみんなで手をつないで生地になるのよ。
やあ、きみなんて名前?僕はジム。
ジム、、、、私に名前なんてないわ。
そうだよ。だから自分で付けるんだ。
意味わからない。なんで?
君のこと思い出せなくなる。
……
じゃあ、ジェーンだ。君の名前はジェーン。いいね。きっと僕たちはお似合いさ。このあとどうなるかわからないけど、ずっと一緒にいられると思う。
それからわたしはジェーンになった。そしてジムと一緒に生地になった。さすがアメリカン男子。ハンバーガーとコーラのように明快で単純。悪い気はしなかった。勝手につけられた名前も気に入ったし、何よりTシャツになるのが似合っているような気がしてきた。それもシロティーね。
ここよ。ここで決まるわ。『ソトー染工所』に来たわ。あっちのレーンだったら私たちは色つきね。何色にでも染まっちゃうけど、うれしくないわ。
一番奥のあのレーンだったらホワイトよ。ああ神様お願い。
ゴロゴロ…
やったわ。ジム! わたしたちホワイトレーンよ!これでシロティーズね。
ああ、最アンド高だ。きっと僕たちを太陽と爽やかな風が待ってるよ。
ずいぶんと白くなったな。そうね。あの機械2回も通ったものね。特別コースだって。ほら、あそこ、ラベルに書いてある。そうだな、他のやつらは先に行ったもんな。おれたち光ってるぜ。えっと次は…ミシンね。わたしはあと少しで服になれる。楽しみだわ―――。
おいジェーン!起きろ!なんだこれ!
おちついて、ジム。これはねTシャツになるために切り出すの。さいだんっていうのよ。
だんだん音が近づいてきたわね。この後はミシンの上よ。
ちがう。まずい。上を見てみろ。僕たちの間にラインがあるぞ。
どちらかだ。このラインのどちらかが切り出される。ジェーンの夢はTシャツになることだった。シロティーまでもうすこしだ。ジェーンは目を閉じたままじっとしてる。きっと運命を信じてる。きっと僕らはこれで離ればなれだ。泣きたい気分だけど、ジェーンにはシロティーになってほしい。叶えてあげたい。神様お願いだ。
結局 シロティーになったのは、僕だった。
今は畳まれて袋の中だ。あの後のことは良く覚えてないけど、ジェーンにサヨナラは言えなかった。Tシャツにはなったけど、なんだか空しいんだ。クラスメイトだったのにラインのこっちと向こうで運命は違ってた。ジェーン、燃えてしまったのかい?
僕は袋から出された。どうやら、袖を通した男はポニーって名前らしい。余りハンサムとは言えないが、悪いやつではなさそうだ。ただ、Tシャツを引っ張る癖があって、きっと何日か後には僕はノビノビだ。お、外に出るようだ。
こっちもいるから袋に入れて。
なんだ?見覚えがあるぞ!「シーエフワン」どうなってるんだ?そうだここはジェーンと別れたあの場所だ。そんなことあるのか?とにかく落ち着こう。袋に入れてる—そうか向こう側か。ということはジェーンもきっと袋の中だ。ポニーはどうするつもりなんだ?持って帰るのか?
「ダブルエックスデベロップメント お裁縫男子の店はこちら」どうやらポニーの工場らしい。奥から金髪が出てきた。二人で何か話している。僕は日本語はさっぱりだが、彼らの英語よりはましだ。”リサイクリングループ” “ヒューマンズTシャツ” これは聞き取れた。そしてミシンが並んでる。わかりづらい階段を上がるとどうやら店の入り口の様だ。ひょっとして僕はここでTシャツになったのか??
ジム!ジム!
えぇ!?
ジェーン?ジェーンじゃないか!どうして?
わたしTシャツになったわ!
ねえ、聞いて!わたしあの後、袋に入れられてとても悲しかった。サヨナラもいえなかったし。ずっと泣いていたわ。もうあきらめてたの。きっと燃やされるんだって思った。でもね、ポニーがもう一回Tシャツにするって言ってくれたの。もう一回最初の「ナイガイテキスタイル」に戻されたの。わかるでしょ?もう一回糸になって、違うクラスメイトだけど、生地になって、染工所にいってここに来たってわけ。ちょっと遠回りしちゃったけど、夢が叶ったわ。シロティーになれたの。
僕は君とまた会えてうれしいよ。
あのジャスミンも最高よ。
ジャスミン?
さっき下にいなかった?金髪の…とにかくやさしく丁寧にTシャツにしてくれたわ。あなたと違って繊細よ、彼は。
わたしはあきらめなかった。どうしてもシロティーになりたかったの。わたしひとりじゃどうにもならなかったかもしれない。だけどあきらめなかった。瞳を閉じたままじゃだめね。自分らしく自由に。これからはそう生きていこうと思ってるの。
じゃあ、僕と一緒にポニーの家に帰ろう、ジェーン。
それはやめておくわ、ジム。あなたみたいにノビノビに引っ張られたくないの。
わたしは、ジャスミン希望です。
おわり
ワタのリサイクルについて絵本を出そうなんてお誘いをいただきまして、僕なりに書いてみましたが、ちょっとアダルト仕様になりましたw これまで、いろんな方にお世話になりました。ありがとうございます。一部というかほぼフィクションです。というわけで、ヒューマンズTシャツは近日発売です。是非お求めください。続報はお裁縫男子でお待ちしています。
それでは、また。
戸谷より