January 16. 2026 ANGIE AND KENT’S WOOL BLANKET Episode – 1
「図書館・ピンクライン」
大学では話したことはなかった。
名前も知らなかった。
でも、彼女はいつも図書館の中庭で本を読んでいた。
きっとお気に入りの場所なんだと思う。
僕は反対側のベンチで、
背を向けるように座っていた。
そんな日が、何日も続いた。
偶然じゃない。
正確には――僕が彼女を見つけて、そうしていたのだけど。
ある日、廊下ですれ違った。
僕は彼女を見ていたけれど、
彼女は気にしていない様子だった。
小脇に抱えていたのは、
黒い背表紙の本。
夕方、図書館に行くと、
さっきの本が棚にあった。
とっさに図書カードを見る。
14 Nov Kent
25 Nov Angelina
アンジェリーナ。
彼女の名前だ。
僕が読んだ本の、次の借り手は彼女だった。
それから、
僕はアンジェリーナが返す本を待つようになった。
白い背表紙。
1週間でできる彼のセーター
緑の背表紙。
かぼちゃのスープと動物クッキー
黄色の背表紙。
手作りリーフとチーズケーキ
カードには、
いつも彼女の名前の次に、僕の名前を書いた。
気づいていないだろうけど、
同じカードに名前が並ぶのが、少しだけ嬉しかった。
ある日、ふと気になって
緑の背表紙の本を手に取った。
カードを見る。
15 Mar Kent
21 Mar Angelina
……あれ?
別の本も確認する。
11 Feb Kent
20 Feb Angelina
僕の名前のあとに、アンジェリーナ。
黒い背表紙の本も、そうだった。
偶然じゃない……のか。
「そこの、きみ。」
職員のウィリアムが呼んでいる。
カウンターの上には、
ピンクラインのブランケット。
女の子がよく使っている貸出用のものだ。
「これを……渡してくれないか?」
中庭を指さして、
ウィリアムは意味ありげに微笑んだ。
「あの……これ。」
「え、あたし?」
「……ありがとう。」
僕とアンジェリーナが会話をした。
正確には、あいさつをした。
それだけだった。
今でも、あの図書館の匂いを思い出す。
「ねぇ、聞いてる?」
「え?」
僕はコーラを飲んでごまかした。
「図書館で借りた、あの黒い背表紙の本。
ケント君も読んでたでしょ?」
やっぱりだ。
「どうだった?」
「面白かったよ。」
「Hajime & Tango?」
「ジーパン屋さんとクロネコの話。」
「アイロンでパン焼けるか、ってやつ。」
「工場で赤い糸見たら告白したくなる話。」
「あ……」
アンジーはバッグから
ピンクラインのブランケットを取り出した。
「これ覚えてる?」
「大学の図書館のやつ。」
「いつも使ってたよね。」
「……見てたんだ。」
「一度、持ってきてくれたでしょ。
何か言ってくれるのかと思った。」
「いや、その……」
「ウィリアムさんにね、
ケント君が読んでる本、教えてもらってたの。」
「なんで?」
「だって、
大きな夢とか、自由って感じだったから。」
「好きだったの。」
「え?」
「男の子の世界って感じ。」
「このブランケット、なんで持ってるの?」
「お気に入り。ピンクラインが好きなの。」
「知ってる。」
「実はね、ウィリアムさんにお願いしたの。
“これください”って。」
「そしたら、
卒業のお祝いにくれたの。」
「ねえ、広げてみて。」
「……大きいね。」
「AVEC SIZE って書いてあるの。」
「ねえ、ケント君。」
「……」
「アベックしてよ。」