ANGIE AND KENT’S WOOL BLANKET  Episode – 2

January 16. 2026 ANGIE AND KENT’S WOOL BLANKET Episode – 2

「未来は続いている」

あのコンサートから、
1年が経った。

僕は新しい何かを求めていた。
でも、まさかの“アベック成功”で、
結局いつもの町に戻ってきてしまった。

「アベックしてよ」

あんなふうに始まったラブストーリーは、
突然すぎて、夢みたいだった。

「これからどうするの?」

「街に帰るよ。」

「君は?」

「わかんない。
そのうちね。」

家に戻ると、母が聞いた。

「どう? たのしかった?」

「まあね。」

「そんなに汚して。
早く脱いで、シャワー。」

5歳のころから変わらないセリフだ。

ピケのジャケットもパンツも、
ずいぶん汚れていた。

「ねえ、アベックって……」

やめておこう。
母が聞きたいのは、そんな話じゃない。

正直、
僕は“シアワセの向こう側”にいた。

図書館の彼女と、
コンサートの彼女。

そのギャップに、
完全にやられていた。

でも、ここはゴールじゃない。
ストーリーが始まったばかりだ。

「ところでケント、
仕事はどうするんだ?」

シャワーのあと、父はいつもこのタイミングだ。

「俺みたいになるな。」

「時代は暗い。」

「好きな子ができたら、
デートに誘え。」

急にロマンス路線。

「愛と平和はいい。
でも、仕事も必要だ。」

今の僕には、
妙に納得できた。

もうすぐ1年。

“ファースト・アベック・アニバーサリー”。

でも――

結局、
僕はいつもの町で暮らしている。

“そのうちね”を待ちながら。

アンジーを待つ場所は、
ここしかなかった。


ある日、
街で人気の店「DROP」で食事をしていると――

「よう! ケント君。元気かい?」

「ああ、アルベルト。」

「相変わらず、浮かない顔してるな。」

アルベルトはナッツを口に放り込んだ。

ポリポリ……

「今日は見せたいものがあるんだ。」

「スコッチとバーボンと
レスポールの話はもういいよ。」

「スワップミートで、
インディアンの格好をした男に
バイクを売ったことがあってね。」

「代金を全部コインで払うって言い出してさ。
今思えば、迷惑なやつだった!」

ポリポリ……ポリポリ……

「わかったよ。
それで、見せたいものって?」

アルベルトはポケットから袋を出し、
神妙な顔で差し出した。

「ノースダコタ、オクラホマ、
オレゴン、ニューハンプシャー……」

「裏を見てごらん。
クオーターコインだよ。」

「ワシントンがいるな……
でも、イーグルじゃない。」

「それに、1999年? 2008年?
いまは1970年だろ。
偽物じゃないの?」

「ははは、それもいいね。
信じるかどうかは、君次第だ。」

ポリポリ……ポリポリ……

「その男は昔、
インディアンに会いに行ったそうだ。」

「彼らの考えに感動して、
仲間になりたくなってね。」

「長老と交渉して、
“希望の崖”から
“未来の泉”へ
飛び込んだんだってさ。」

「長老は言ったそうだ。
“これは未来から
持ち帰った”って。」

ポリポリ……ポリポリ……ポリポリ……

「ねえアルベルト、
そのナッツ……」

「ああ、僕はこれしか食べない。
たとえリスになったとしても。」

……アルベルトは、
いつも難解な話を簡単に話してくれる。

でも、
ホントかウソかはよくわからない。

おとぎ話を超えて、
もはやファンタジーだ。

「ねえ、アルベルト。
これって、騙されてるんじゃ……」

「ああ、
そうかもしれないね。」

アルベルトは、
あっさり言った。

「でも、
それは自分にとって
どうなのかで決まる。」

ポリポリ……

「僕は何日も
想像を膨らませて、
楽しかった。」

「だから今、
君にこんな話をしてる。」

「もちろん、
ジョークだと思ったこともあるよ。」

ポリポリ……

「でもさ、
“未来は続いてる”
ってことだ。」

アルベルトは、
コインを指でつまんで
光にかざした。

「州ごとに柄が違うだろ?
ほら、
ルーツの年号も入ってる。」

「アイデンティティーは
続くんだ。」

「僕は、
それで満足してる。」

アルベルトは、
ナッツを食べるのをやめて、
少しだけ真面目な顔になった。

「それでだ、
浮かない顔のケント君。」

「このコインを、
君にプレゼントしようと思う。」

「大丈夫。
これが“証拠”だよ。」

「きっと、
未来は続いてる。」

「君は、
僕よりずっと若い。」

「不安になるのも、
それだけ考えている
ってことさ。」

「考えるベクトルを変えるんだ。
ポジティブに。」

ポリポリ……

「さっきも言ったけど、
君は若い。」

「明日、
またスワップミートがあるだろ?」

「行ってみるといい。」

「君のお待ちかねに、
会えるかもしれない。」


ホントかウソかわからない話だった。

でも、

「未来は続いている」

その言葉だけが、
胸に残った。

翌日、
アルベルトに言われた通り、
スワップミートに向かった。

特に探し物はなかったけど、
あのコインだけは
ポケットに入れた。

「いらっしゃーい。
ブランケットはいかがですかー?」

……アンジー。

芝生の上に
ブランケットを並べている。

朝の光に照らされて、
まさに僕の待っていた
アンジーだった。

でも――

隣には、
まさかのインディアン。

「ケント君。
コインは持ってきたかい?」

「……え?」

「僕だよ、
ウィリアム。」

図書館の、
あのウィリアムだった。

「実はさ、
アンジーが戻ってくるって
聞いてね。」

「リスのおじさんと
作戦を立てたんだ。」

ウィリアムは
コインを叩いて、
コンチョを作った。

それを、
ブランケットに
縫いつけた。

「図書館のころから、
二人はお似合いだった。」

「アンジーは、
君に会いたがってる。」

「ケント君!」

「アンジー!」

「久しぶり。」

「そのうち……」

「そのうちが、
今になっちゃった。」

「それなに?」

「コインが……
勇気の印で……」

「なにそれ、
すごくセンスいい!」

「ねえ、ケント君。」

「うん。」

「デートしよ!」

つづく